「常にトップを走ってきた。これからもそのつもりでいる」

 

昔から、何でも出来た。

勉強もスポーツもトップだった、恋愛も年相応にそれなりにお付き合いをした。

才能に恵まれて何の苦労もないと、捕らえられているが、それは違う。

ちゃんと下調べをして準備も怠らない。

並外れた努力かどうかなんて、人それぞれだから比べようもないが、

回りと同じように努力をしている。

 

負けて悔しい思いをするのは嫌だから、常に自分を分析し戦略を立て、

最適な力の配分をして事に挑んでいる。

 

何でも出来るからといって自惚れたことはない。

そんなことをしたら、母からお説教を食らうだろう。

 

モテるからといってはなにかけることもない。

そんなことをしたら、兄から口をきいてもらえなくなる。

 

私には素晴らしい母と兄がいたから、ここまでやってこれた。

わたしの一番の恵まれた才能は家族だ。

 

母は常に私の一番の理解者でチアリーダーだった。

母に心配をかけたくなかったから、私はいつも頑張ったが、

どんな些細な失敗もちゃんと見ていて

「大丈夫、問題ない」と勇気付けてくれた。

上手くいった時は、誰も見ていないような私のこだわりを褒めてくれた。

そうだ、いつも褒めてくれたんだ。とても、嬉しかった。

 

兄は常に私の父親であり友達として

私が落ち込んでいたら元気付けてくれるヒーローだ。

小さい頃から、いつも、自分の大好物を私に譲っていたし、

私の前で辛そうな顔をしたことなんて一度もない。

 

小さい頃の私は、回りに女の子がいなくて友達がいなかったけど、

兄は友達に嫌な顔をされても、私を連れて遊びに行ってくれた。

 

母に内緒で海まで行って、兄の貯めたおこずかいで買ったサイダーを、

ほとんど私にくれて「旨かったなー」って言っている顔は、今でも夏の海と

キラキラ光る太陽と一緒に私の大切な宝物だ。

 

母と兄には嘘をついたことがない。

今までもこれからもそのつもりだ。

 

少し前に母が亡くなった。

突然だったけど、嘘みたいに楽しそうな顔をしていた。

 

みんなの前では懸命に強く振る舞ったが、一人になると、

目の前がグラグラと不安定になって、息が出来なかった。

心臓を不規則に痛みが襲い、食べたものは全て吐きそうだった。

 

お母さんに会いたい、話がしたい、

私の話を聞いて欲しい、私を見て欲しい、

もう一回いっしょに笑って欲しい。

夢でも良いからもう一度会いたい。

 

さんざん泣いて、また泣いて、

どうしようもないのは頭では分かっているけど、

もう、どうしようもなかった。

 

兄は一人立ちして家を出て行っているが、直ぐに駆けつけてくれた。

兄もやりきれなかったんだろう、物凄いお酒の匂いがした。

 

しかし、葬儀が終わって、兄はもう普段の顔で元気にしていたから、

少し当たってしまった。

「お母さんが死んだのに、なんでそんな顔が出来るの?」って。

兄は、いつも通りの雰囲気で、

「母さんは楽しいのが好きだったからなあ。

 別に母さんのために僕たちに、ああしろこうしろ言う人じゃないし。

 好きなことをやれ、頑張れ、って笑って言うだろうけど。

 母さんは、悲しみみたいなのは望んでないよ。楽しそうな顔してたし」

と、母さんが死んだことを受け入れている強さに感服した。

兄がいてくれて良かった、本当に良かったと、何度も感謝した。

 

そして、母のいない、

二人になってしまったテーブルで久しぶりに、一緒に食事をした。

全部、私が好きなものが並んでいた。

優しい兄はこんなときでも、自分の好物を私に勧め、

母さんのくだらない思い出もテーブルに色々と並べてくれた。

 

あんなことがあった、こんなことを一緒にした。

いつも母さんは僕たちの味方で、応援してくれていたね、

君は母さんと僕の自慢なんだよ、と元気付けてくれた。

 

兄が帰るときに空港で、

「こんど僕たちの家においでよ。

 みんなマーガレットのことは大歓迎だし、

 家族としてみんな迎えてくれるから」

と、また寂しさを紛らわせてくれた。

 

そして、帰って行く前にサイダーをおごってくれて

「必ず来いよ」と言った兄は、

やっぱり私のヒーローだった。